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「次の停車駅は~、惑星ハルケギニア~、惑星ハルケギニア~、停車時間は一ヶ月~」 鉄郎はその星で聖地と呼ばれた銀河鉄道ステーションに降りた直後、コントラクト・サーヴァントで召喚された ルイズの使い魔となった鉄郎は、盗難された学院の秘宝を奪還するためにフーケのゴーレムと対峙する 「テツロー!この秘宝『宇宙の竜騎兵』は取り返したわ…」 「ルイズ!それを"返せ"!」 鉄郎は戦士の銃コスモ・ドラグゥーンでフーケのゴーレムを撃ち砕き、勝利した 後に鉄郎とルイズは神聖アルビオンとの戦争に巻き込まれ、戦艦レキシントンの攻撃に晒されるが その時、タルブ村の地下での長い眠りから目覚めた宇宙戦艦ヤマトがやってきた(第二案、ハーロック) ルイズは戦艦ヤマトの艦首で虚無の魔法をエネルギー変換して、レキシントンに叩き込んだ 「…これは…波動砲…」 後に鉄郎はルイズを守るため、7万のアルビオン軍に戦士の銃一丁で立ち向かうが 深い傷を負った鉄郎はウエストウッド村に住む金髪で豊満な体型の黒服女性に助けられる 「…鉄郎…999に帰りましょう」 鉄郎はこの星を去った なお、メーテルや森雪、エスメラルダのような松本零冶作品の女性とは似ても似つかぬルイズは 鉄郎にとっては女でなく、恋愛対象にはなりえなかったとか ルイズが星野鉄郎を召喚
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前ページ次ページつかわれるもの 第01話 呼び出されたもの ここトリステイン魔法学院では、現在二年生の「春の使い魔召喚の儀式」の真っ最中だ。 午後から始まったこの儀式だが、生徒達は順調に召喚に成功して行き、一人の女生徒を残すのみ。 しかしその女生徒が召喚の魔法を唱えても……聞こえてくるのは儀式を終えた生徒や使い魔の叫び声と―――爆発音だけであった。 その女生徒――ルイズはこれで16度目となる爆発にも決して諦めようともせず、ゆっくりと深呼吸を行って精神を集中させていた。 (今度こそ大丈夫だ、落ち着こう……) 周りから聞こえて来る罵声と悲鳴、教師がまた明日行えば……と言ってくるが、ルイズはもう一度だけやらせて下さい!と半ば強引に押し切った。 (今まで沢山練習したんだ、落ち着いてやれば成功するわよッ……) そして再び杖を掲げ、声を張り上げた。 「宇宙の果てのどこかにいる、私の下僕よ!強く、美しく、そして生命力に溢れた使い魔よ!私は心より求め、訴えるわ。我が導きに応えなさい!」 ――再び巻き起こる轟音を伴った大爆発、今までで最大の規模だ。 太った一人の生徒が巻き込まれ、焼き過ぎて焦げてしまった豚のように真っ黒になってしまった。 ルイズはついに地面に崩れ落ちた。 今までの努力は、勉強は、練習は、無駄だったのだろうか。 所詮「ゼロ」のルイズには召喚なんか無理だったのだろうか。 そう考えると涙が出そうになった……が、周りの叫び声で我に返った。 「お、おい!何か動いてるぞ!」 「あのルイズが成功したのか!?」 「マリコルヌ!傷は深いぞ!しっかりしろ!!!」 何かが、居る? 勢い良く顔を上げ、土煙の中を確認すべく目を凝らす。 そこには確かに何か動くものが存在し、ルイズは期待に胸を膨らませた。 (ドラゴン?グリフォン?この際だったら鷲とか、梟とか、何でも良いわ!) そして段々と土煙が晴れて行き、そこに居たのは…… 「あ、亜人!?」 獣の耳と尾を持つ女性と、鷲の翼のような耳を持つ女性の二人だった。 カルラが目を開いた時、目の前は土煙で覆われていた。 そして辺りからは罵声や悲鳴、そして驚愕の声が聞こえて来る。 落ち着いて周囲を見回すと、隣にトウカが倒れているのが見えた。 「トウカー、死んでませんわよねー?」 ゆっさゆっさとトウカの身体を揺する。 呼吸はしているようだから死んではいないだろう。 片手で顔を抑えながら、トウカはゆっくりと上体を起こした。 「んー……ここは?」 「良く判りませんけど、生きてはいるみたいですわねー」 「先程居た戦場では無いみたいだな……」 「どうやら"あの鏡"で何処かに飛ばされた、と考えるのが妥当ですわね……」 結論から言えば、カルラの読みは正しかった。 土煙が晴れて目にしたのは、珍妙な衣装に身を包んだ子供達であった。 それを見守っていた教師――二つ名「炎蛇」のコルベールは、目の前で起こった事態に困り果てていた。 何しろ亜人が召喚された、というだけで相当の異常事態であると言うのに、あまつさえそれが二人も居るのだ。困るのも当然と言えば当然なのだが。 試しに彼女達に『ディテクト・マジック』を使ってみたのが、結果として両方から魔力反応があった。 やはり先住魔法が使える、と考えるべきなのだろう。いきなり暴れ出そうものなら手が付けられない事は明白だ。 そして、コルベールを悩ませる理由は彼女達の存在だけでは無かった。 「ミスタ・コルベール……私はどうすれば良いのでしょうか……」 そう、彼女達を召喚したのが――ルイズだと言う事だ。 コルベール自身、彼女の努力は良く判っているつもりでいた。 そしてルイズに才能が無いのでは無く、まだ開花していないだけだ、と考えていた。 ルイズが今日の儀式の為に、毎日毎日努力をしていた事を知っていた。 だからこそ、この機会に召喚できずに退学、という事態だけは絶対に避けて欲しかった。 もしこれを認めなかったら、次に召喚する時に成功する保証は……無い。 コルベールは考える。 召喚される使い魔は、主にとって最も必要とされる存在だ。 恐らく何らかの理由で、彼女達は呼ばれたのだろう。 今更何をした所で、杖はもう振られたのだ。ならばこの流れに全てを任せよう。 もしこの女性達が暴れ出そうものなら、自身が全力で止めてみせる。生徒達を守ってみせる。 コルベールは意を決して、ルイズに声を掛けた。 「前例には無いが……例外は認めらない。春の使い魔召喚の儀式はあらゆるルールに優先する」 「彼女達のどちらか片方と、『コントラクト・サーヴァント』を」 前ページ次ページつかわれるもの
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ルイズたちが教室に入ると、廊下まで聞こえていた賑やかさが消えうせ、牽制するかのような視線が向けられた。 そんな態度をとる理由、そして視線の向けられているであろう人物にルイズは検討がついていた。 十中八九間違いなく、シャオがその原因だ。 おそらく、昨日の儀式の終わった直後から噂になったのだろう。 ゼロのルイズが月の精霊を召喚したことが。 精霊と言えば水の精霊のように人間とは違う価値観でこの世に存在にして、あの恐るべきエルフたちの使う先住魔法の源。 そんなただでさえ畏怖すべき存在な上に、彼女は月という魔法にかかわりの深いものの精霊なのだ。 あとはまぁ、かわいい女の子がいたからつい見てしまった。というのもあるんだろう。 現に薔薇を持った少年がその彼女にわき腹をつつかれている姿もあった。 そんな教室に、一人の女性が入ってきた。ミス・シュヴルーズだ。 彼女は教室を見回すと-シャオの辺りで一瞬視線が止まったことは言うまでも無い-満足そうに微笑んで言った。 「皆さん。春の使い魔召喚は大成功のようですわね。特にミス・ヴァリエールは月の精霊を召喚したとか。 このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に様々な使い魔を見るのがとても楽しみなのですよ」 そう言うと、そのまま授業に入った。 授業自体はほぼ問題なく進んでいた。錬金にルイズが指名されるまでは。 「では、この錬金をミス・ヴァリエールにやってもらいましょう」 その一言で教室の空気が緊迫したものに変わった。 「ミ、ミス・シュヴルーズ、彼女にやらせるのは止めたほうがいいと思います」 キュルケが困り顔で進言する。 「どうしてです?」 「危険だからです」 なにも知らないシュヴルーズにキッパリと言い放つ。教室のルイズとシャオ以外の生徒がそれに同意し頷く。 「危険?どうしてですか?たしかに彼女に授業を教えるのは初めてですが、彼女が努力家であることは聞いています。 さぁ、ミス・ヴァリエール。気にしないでやってごらんなさい」 そう言いルイズに催促をした。 「あなた、危ないから机の下に隠れていたほうがいいわよ」 ルイズの後ろの席に座っていた生徒がシャオに避難をすすめる。 「? どうしてですか?」 「いいから。悪いことは言わない。ルイズが杖を振る前に隠れておきなさい」 そう言うと机の下に隠れてしまった。 「さぁ、錬金したい金属を強く思い浮かべ、杖を振るうのです」 そしてそのセリフの直後、教室に爆音が鳴り響いた。 その爆発に驚き、使い魔たちがパニックを起こして教室で暴れ始める。 「襲撃!?みんな、ご主人様をお守りして!!」 勘違いをしたシャオがそう叫ぶと支天輪を前にかざし、彼女は自身に仕える星神と呼ばれる中国星座の精霊たちを召喚する! 次々と現れる小人や鳥にペンギンもどきや鹿etc。 このとき、右手のルーンが輝いていたのだが、それに気づいた者は誰もいなかった。 なぜならパニックになる使い魔とそれを治めようとする生徒、そしてルイズを守ろうと翻弄するシャオたちのせいで、教室は阿鼻叫喚の坩堝となっていたからだ。 ルイズはそんな現実から逃避するために、シュヴルーズのように気絶した振りをするしかなかった。 「はぁ・・・」 小人達の手で修繕されていく教室の中でルイズは大きなため息をついた。 「ごめんなさい。私が早とちりをしてしまったばっかり・・・」 シャオが実に申し訳なさそうにルイズに謝った。 そんなシャオに、ルイズは慌ててフォローを入れる。 「べ、別にあなたは何にも悪くないのよ。使い魔としての役目を果たそうとしてただけなんだから」 ルイズたちには教師からこっぴどく説教を喰らった後、罰として教室の修繕を命じられていた。 もっとも、教室の修繕はシャオの呼び出した建物の建設・解体を担当する48人の小人からなる星神『羽林軍』がさっきからやっており、ほとんど終わっている。 「なんだかね、とっても情けないなぁって思っちゃっただけよ」 ルイズは少し寂しそうに呟き、心情をシャオに漏らす。 「わたしね、さっきみたいに他の連中と違って魔法が上手く使えないの。 もちろん努力は沢山したけど、いつも同じ結果だから『ゼロのルイズ』なんて呼ばれてる。 せめて人並みに魔法が使えるようになりたいんだけどね・・・」 そんな今にも泣き出しそうなオーラを出すルイズを、シャオは優しく包み込むようにそっと抱きしめる。 「私には、魔法を使えるようにしてあげることはできません。だけど、いつかそうなれるように応援することはできます。 私は諦めずに応援し続けます。だから、あなたも諦めないでください。夢を現実にすることを」 ルイズは抱きしめられる中で、彼女の雰囲気が自分の好きなほうの姉に似ていることに気づくのであった。
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ルイズはある城の地下深くにいた。ルイズの目の前には一人のメイジが玉座に坐っている。 悪魔のような恐ろしいあ人のメイジが・・・ 「よく来たルイズよ。わしが王の中の王、竜王だ。わしは待っておった。そなたのような若者が現れることを・・・。もしわしの味方になれば世界の半分をルイズにやろう。どうじゃ?わしの味方になるか?」 「あ、あの、なんで私はこんな所にいるんでしょうか?」 「何をいまさら。そなたはわしを退治しにこの城までやって来たのではなかろうか」 「あ、あなたのようなメイジを退治なんてとんでもないです!ぜひとも味方にさせてください!でも、ゼロの私に世界の半分なんて荷が重すぎます!」 「ほう、世界の半分は入らぬと申すか。まあ、そなたが望むのならそれもよかろう。ルイズよ。お前の旅は終わった。さあゆっくり休むがよい!わあっはっはっはっ・・・・・」 ルイズの視界は真っ暗になってしまう。数時間後、先ほどのメイジと同じ声がルイズの耳に響いた。 「ルイズ。起きるのだ。ルイズ」 ルイズははっと、夢から目覚めた。そして目の前には先ほどの夢の住人の姿があった。 「ひっ!夢の人!?せっ、世界の半分なんてとんでもないです!」 「何を言っておるのだ?わしはそなたに召喚された使い魔ではないのか?」 -すっかり忘れてた。昨日召喚したんだっけ。確か昨日夜に散歩に行ってたんだっけ。 「た、確かに召喚したわね。ちょうどよかったわ。じゃあ、この服を洗濯しといて頂戴」 「わしが・・・洗濯をか・・・?」 「そうよ!あんたは私の使い魔なんだからそれくらい・・・な、何よ、その目は・・・」 「王のわしにそのようなことをしろというのか・・・!」 竜王の魔獣のような眼光でにらまれたルイズはヒッと足がすくんでしまう。 「愚か者め!思い知るがよい!」 -なんで!?物探しのときは快く引き受けてくれたのに・・・ ルイズと竜王の考え方は違っていた。 物探しの件は、ルイズは使い魔なんだから主人の命令を聞くのは当然と思っていたのに対し、竜王は自分の部下の望みはある程度叶えてやるものだと考えていた。 もちろん部下の衣類の洗濯等は上の者がやるようなことではない。 「な、何よ・・・私はヴァリエール公爵家の人間なのよ・・・あんたみたいのがかなう訳ないじゃない・・・」 口では強がりを言って見せるが、足はガクガクと震え、目からは沢山の涙の粒があふれている。竜王はフッとルイズを嘲笑する。 「何がおかしいのよ!」 「哀れだな、ルイズよ。どうやっても太刀打ちできぬ相手に一生懸命強がりを言って見せる。自分がわしにかなわぬことは自身がよく分かっておるはずじゃ。いくらわしでもこんな間の抜けた相手と戦うのはちと気が引けるのぉ」 「も、もういいわ!洗濯は自分で行ってくる!」 そう言ってルイズは学院を出て広場に向かった。 「あの、ミス、ヴァリエールですよね?」 メイド服に身を包んだ少女が、後ろからルイズに声をかけてきた。 「確かあんたはここのメイドの・・・」 「はい。ここで働かせていただいているシエスタと申します」 「ねえ、シエスタ。あんたも洗濯しに行くんでしょ。私のもやっといてよ」 「そういえば、貴方の召喚した使い魔は人語を解す亜人だとか・・・」 「そうだけど、それがどうしたのよ?」 「誠に申し上げにくいのですが、洗濯なら・・・」 「あー、だめだめ。あいつったらかなり尊大なやつで、とても洗濯なんてさせられるようなやつじゃないのよ。そういうことで、あんたがやっといてよ」 「はあ、分かりました」 亜人の使い魔が来て、洗濯者が少し減ると思っていたがそうでもなかった。しかし、彼女は別に洗濯が嫌いという訳ではなく、気にはしなかった。 ルイズは部屋に戻って、いそいそと着替えを始めた。洗濯をしてくれない者が服を着替えさせてくれるとは到底思えないからだ。 ルイズと竜王は朝食をとるために部屋から出る。 すると、部屋を出たと同時に他のドアも開いた。 中からはルイズと同い年とは思えないほど大きな胸を持った艶やかな褐色色の肌で赤い髪の少女(といえないかもしれない大人っぽい女性)が出てきた。 彼女は竜王の姿を見た途端に顔が引きつってしまった。 「お、おはよう、ルイズ」 「おはよう、キュルケ。どうしたの、顔が引きつってるわよ」 「隣にいる彼が貴方の使い魔なの?」 「そうたけど、とっても尊大で全然使い魔とは成り立たないのよ」 「やっぱり、使い魔は普通は動物や幻獣だからねー。たとえば私のフレイムとか」 キュルケの部屋からは、真っ赤な巨大なトカゲが出てきた。しかし、何かにおびえるように震えている。 「あ、あら?どうしたの?」 「これってサラマンダーでしょ?」 「そうよ、火トカゲよ、召喚される前は暑い火竜山脈にいたから、風邪でも引いちゃったのかしら」 別にフレイムは風邪を引いたのではない。サラマンダーは竜に近い種族。 竜王の圧倒的な存在感に怖じ気づいている。 「ほう、これがサラマンダーか。古い書物に載っているサラマンダーとは外見が大きく違うようだが、まあ、あれは遠く昔のことだ。長い月日が立てば、生物の姿も変わるかもしれん」 「せ、生物の姿も変わる!?」 キュルケは竜王の言ったことに対し気ったことを、恐る恐る聞いてみた。 「確か書物に描かれていたサラマンダーはトカゲではなく龍の姿であった」 「タツ?タツとはいったい・・・」 「龍というのはだな、角は鹿、頭はワニ、体は大蛇、爪は鷹、掌は虎にており、魔力により空を飛べる生物のことだ。空を飛べる竜、すなわち飛竜と言われることもある。わしの住む世界ではすでに死滅しておるが、この世界にはまだ残っておるのか」 「じゃあ、この子のご先祖様も空を自由に飛び回ってたんだ・・・」 多分それはないと思う。 「それで、あなたのお名前を押し言えてほしいんだけど・・・」 「わしの名か、わしは竜王。王の中の王、竜王だ」 「とても偉大な名前ですね・・・」 キュルケの顔は先ほどにも増して引きつっていた。 「じゃあ私はこれで」 サラマンダーを自慢しに来たキュルケだが、なんだか焦りながら去っていったように見える。実はキュルケもルイズも、リューオーという名前が竜王を表すのだとはうすうす気づいていた。 しかし、認めたくなかった。どちらも誰もが認めるゼロのメイジのルイズに、そんな高等な生物を召喚できるわけがない。 そして、ルイズの方は「自分より使い魔の方が偉いなんてあり得ない」といった感情も持ち合わせていた。さすがにキュルケはそんな使い魔を召喚してしまうルイズをゼロとは呼べなかった。 「サラマンダーが昔は空を飛んでたって本当?」 「実物を見た訳ではないのだが、本にはそう記してあった」 「そっか、じゃあ、これから食事を取りに行きましょ」 「うむ、分かった」 食堂についたルイズと竜王は、料理の並べられた椅子に座った。 「あんたもメイジでよく分かんないけど王様みたいだから、一応きちんとしたものを食べさせてあげるわ」 「ふん、小娘が、生意気な口を聞きおって」 このようなことを言うルイズだが、本当は安物の固いパンなどを与えてしまうと恐ろしい魔法で処刑されることが目に見えていた。 そして、竜王は元いた世界では悪の化身として邪険にされていて、少なくとも人間から食事をもらうなどあり得なかった。 生意気だと思いつつも、その行為に少しだけだが揺れ動いた。 「ほう、これはかなりの美味だ。料理人の腕が食材のよさを活かしておる」 「そ、それはよかったわね」 食事が終われば次は学院での魔法の授業だ。これは竜王にとってかなりの好都合。この世界を我が物にするのは授業を通してこの世界のことを知るのが一番だからだ。
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前ページ次ページゼロの大魔道士 「で、ですが!」 「そうはいいますが、ミス・ヴァリエール。ゲートから出てきたと思われる以上…」 現在、ルイズは非常に狼狽していた。 召喚に成功したと思えば、当の召喚獣――竜(マザードラゴン)が契約前に逃げ出してしまったのだ。 これは前代未聞の出来事であり、同時に大恥であることは間違いない。 いや、それだけですめばまだいいほうだ。 実家に伝わればヴァリエール家の恥として放逐されてもおかしくはない。 だが、絶望に沈もうとしていたルイズを拾い上げたのは何故か頬を赤らめたコルベールだった。 時間は数分前に遡る。 気色悪い呆け顔で「ぱふぱふ…」とか呟いていた彼コルベールが、ルイズの下に敷かれている人間に気がついたのである。 コルベールの指摘でようやくそのことに気がついたルイズは慌てて跳ね起きた。 生徒の誰かを尻に敷いていたまま放置していたのならばそれは十分に失礼な行為だからだ。 だが、見下ろした顔に見覚えはなかった。 それどころではない、気絶して寝転がっている少年は見たこともない服装をしているではないか。 「…なんで平民がここに?」 ルイズはぽつりと呟いた。 ここトリステイン王国には、決定的な身分差が存在している。 すなわち、貴族と平民だ。 その判別方法は至って簡単で、魔法を使えるものが貴族、そうでないものが平民というもの。 中には例外(貴族から没落したメイジ)などもいるが、この概念はトリステインに住む者ほぼ全てに適用される。 然るに、ルイズの目の前にいる少年はマントこそ着用しているものの、見たことのないデザインの服を身につけている。 そして杖は持っていない。 つまりは、この少年は平民であると判断されるわけである。 「ふむ、どうやらこの少年もサモン・サーヴァントによって現れたようですな」 「え?」 「ミス・ヴァリエール、この少年とコントラクト・サーヴァントを」 「へ、え? えええええ!?」 ルイズは驚いた。 このハゲ教師はいきなり何を言い出すのか。 そもそも、自分が召喚したのはあの神々しい竜である。 間違ってもマヌケ面を晒して気絶している平民ではないはずだ。 「召喚した生物とコントラクト・サーヴァントを行うのが今日の目的です。であるからして」 「ちょ、ちょっと待ってください! 私が召喚したのはあの竜で…!」 「ですが、逃げられてしまったでしょう?」 「う…」 容赦のないコルベールの一言にルイズはグウの音も出ない。 だが、コルベールとしてはこの場における一番の打開策を出したつもりだった。 確かに竜は逃げ出してしまったが、少年も召喚によって現れたことは間違いない。 となると、少年もルイズと契約を交わす資格を持っていることになる。 複数召喚などこれまた前代未聞の出来事だが、始祖ブリミルは四体の使い魔を所有していたという。 これはルイズが規格外の存在であることを示しているわけであり、少年もなんらかの特殊さを持っている可能性は高い。 ならば、この場を取り繕うという意味もあるが、とりあえずコントラクト・サーヴァントを行うのが一番良いはずなのだ。 「あはは、流石はゼロのルイズ!」 「召喚した使い魔に逃げられたと思ったら、平民と契約か!」 確かに…と納得しかけたルイズに周囲の生徒から野次が飛ぶ。 コルベールほど洞察に優れない彼らは単純な事実『竜が逃げた』『残ったのは平民』という二点を認識していたのだ。 「ううっ…」 ルイズはぎゅっと唇を噛んだ。 竜を使い魔に出来ると思っていたのにそれが平民にランクダウンしたのだから無理もない。 だが背に腹はかえられない。 使い魔に逃げられるという失態を犯した以上、もはやコントラクト・サーヴァントを嫌がるという選択肢は取り様がないのだ。 「し、仕方ないわね! アンタで我慢してあげるわ!」 そして時間は現在に戻る。 どうにか心の折り合いをつけたルイズは少年を抱き起こすと顔を近づけ、詠唱を始めた。 と、その時。 「う…あ…?」 少年が目覚めた。 意識はまだハッキリしていないのか、目がキョロキョロと動き回る。 だが、ルイズはそれに構わずに更に顔を近づける。 詠唱が終わり、少年――ポップの視界いっぱいにルイズの顔が映り、そして 「ん…」 契約のキスが交わされた。 「うっぐ…な、なんだ…!?」 ポップは急な痛みに意識を覚醒させた。 周囲の状況を確認するよりも先に痛みが体を駆け巡る。 その痛み、熱といいかえてもよいそれは左手へと集中していく。 そして数秒後、ポップの左手には奇妙な紋様が浮かび上がっていた。 「な、なんだこれ!? 呪いか!?」 「失礼ね! これはルーン。アンタが私の使い魔になった証よ」 「は? ルーン? 使い魔? 一体何を言って…」 「ああ、ごちゃごちゃうるさい! いい、私は今非常に気が立っているの! ああもうなんでこんな平民と…」 「落ち着きなさいミス・ヴァリエール」 癇癪を起こしかけていたルイズに近づいてきたのはコルベールだった。 (おいおい、冗談じゃないぜ…) ルイズをなだめすかしているコルベールを常識人と見たポップは状況を把握するべく彼に話を聞き、空を仰いだ。 サモン・サーヴァント、トリステイン、ハルケギニア… そのどれもが聞き覚えのない単語ばかりだった。 しかも、話をまとめると自分は目の前のピンクの髪の少女――ルイズというらしい、の使い魔になってしまったのだという。 (本人の承諾なしにそんなこと勝手に決めんなよ…) 既に自分を使い魔扱いしているルイズにポップは溜息をつく。 気になることは二点。 まず、ダイはどうなったのかという点だ。 話を聞いた限り、マザードラゴンはどこかへ飛び立っていったという。 彼女の性質上、人の目に付くような場所に降り立つとは思えないので発見は困難だろう。 (ようやく見つけたっていうのに…) 話を聞く限り、すべての原因は目の前の少女にある。 如何に女の子に甘いポップといえどもそういう事情となればルイズに好印象を抱くのは無理があった。 「何よその目は」 「いんや別に」 「言いたいことがあるならはっきり言いなさい!」 一方、ルイズはルイズで目の前の少年に憤っていた。 彼女本来の目的からすればコントラクト・サーヴァントが成功しただけでも十分満足できるはずだったのだが なんせ竜→平民という格差である。 怒りを覚えるのも無理はない。 かくして、ルイズとポップという少年少女の邂逅はお互い共に悪印象から始まるのだった。 ついて来いとせかすルイズとそんな少女を心配気に見守るコルベール。 そんな二人を見ながらポップはもう一つの懸案事項――これからどうするか、を考える。 とりあえず、ここは見ず知らずの土地であることは間違いない。 目の前の人物たちが精霊や魔族に見えない以上天界ないしは魔界という線はない。 発見されていない大陸、というのも流石に考えづらい。 となると考え付くのは―― (異世界とか? まあ天界や魔界があるんだから可能性はあるんだが…あ、そうだ) ポップはこっそりとある呪文を呟いた。 その呪文の名は瞬間移動呪文ルーラ。 一度訪れた場所に一瞬にして移動できるという高等呪文の一つである。 (…発動しない? いや、発動後にキャンセルされた?) ルーラの発動自体は確かに起こった。 だが、ポップの体はその場から一歩も動かない。 そう、まるで『行ったことがない場所に向けてルーラを唱えた』かのように。 (おれは今確かに昨日のキャンプ場所を想像したはず…おいおい、マジで異世界の可能性が高くなってきたぞ…) バーンパレスのように空にバリアが展開されているわけでもない。 というかそうだとしてもある程度までは移動が行われるはず。 にもかかわらずルーラはポップの体を運ばない。 これが指し示すことはつまり、ルーラの効果が及びようがない場所に自分はいるということになる。 (勘弁してくれよ…) 大魔王と戦うなんていう非常識をこなしてきたポップからしても異世界に飛ばされたという事態は想定外にもほどがあった。 ダイはどこかへ行ってしまった、帰る方法はわからない。 生命の心配こそとりあえずなさそうではあるが、状況は最悪だといってもよかった。 (とりあえず、情報を集めねえと) ダイを探すにしろ、元の場所に戻るにしろ、右も左もわからない場所にいる以上情報は必須である。 長い間旅を続けてきたポップは情報の大切さをよくわかっていた。 そして、情報源として期待できるのは目の前にいる二人の人間であるということも。 (しっかし、契約ねぇ…呪いみたいなもんじゃねえか) 自分をおいてサッサと行こうとするルイズを半眼で睨みつつポップはどうしたものかと頭をひねらせる。 少なくとも自分は同意した覚えがないのに勝手に使い魔にされたのだ。 情報を集めるという目的上、主人だというルイズに友好を示すことはやぶさかではない、可愛いし。 しかし、使い魔というのは御免被る。 いくら可愛い女の子とはいえ、下僕にされるのは嫌だし、自分にはダイを探すという目的があるのだ。 そのためにはフリーな立場に戻らなければならない。 いっそこの場からトベルーラで逃げ出すか? そんな不穏なことを考える。 (待てよ、ひょっとしたら…) ポップの頭に閃きが走った。 現在、自分をルイズの使い魔たらんと示しているのは左手のルーンである。 つまり、逆をいえばルーンさえなければ使い魔契約は撤廃できるということになる。 だが、聞いた話では使い魔の契約が切れるのは使い魔、つまり自分が死んだ時だけだという。 当然、死ぬ気などサラサラないポップ。 (あの呪文なら…) この時、彼が思いついた方法は思わぬ事態を引き起こすこととなる。 だが、神ならぬポップは物は試しとばかりにその呪文を唱えた。 「シャナク!」 前ページ次ページゼロの大魔道士
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前ページ次ページゼロのTrickster chapter2 異世界 ――今度こそ、成功させないと。 これで幾度、学園の地面を抉り周囲の物を吹き飛ばしただろうか。 ルイズは深呼吸をしてから、再び杖を握る。キッとした表情をコルベールに向けると、教師である彼はルイズの召喚の儀式を不安そうに見守っていた。 「もう一度、やらせてください!」 力強い瞳で懇願するルイズに、コルベールは酷く感銘を受けた。 彼女が入学してから現在に至るまで、座学は優秀であるが魔法は何一つまともに出来た例がなかった。それでも彼女は、この春の使い魔召喚の儀式に全力で臨んでいる。 コルベールが頷くのを確認してから、ルイズは集中した。 (これを成功させれなかったら……きっと私は) 周囲からは、これまでより更に罵られるだろう。使い魔を持たないメイジがどれ程滑稽で、愚かなのかは用意に想像が付く。 いや、想像していることよりも、もっと酷いことなのかもしれない。 だから成功させなくてはいけない。何度失敗しようとも、欲を言えばこれまでの汚名を返上出来るほどの使い魔が欲しい。 心の片隅で願いながら、ルイズは杖を振り上げた。 そのルイズの様子を遠巻きに見ている他の生徒たちは、どうせ失敗するだろうと高をくくって彼女を囃し立てていたが、次の瞬間目を剥いた。 「宇宙の果てのどこかにいる、私の下僕よ!」 とんでもない詠唱の出だしだった。すでに彼女も自分の言っている言葉を認識していないのではないだろうか、そう思えるほどの言葉が次々と響いてきた。 「強く、美しく、そして生命力に溢れた使い魔よ! 私は心より求め、訴えるわ! 我が導きに応えなさい!」 しかし、その詠唱の後にこれまでとは遥かに桁違いの爆発が起こった。 遠巻きにいる生徒たちも爆風に巻き込まれ、ある者は尻餅を付き、吹き飛ばされる者もいる。 その中でルイズは呆然と立ち尽くしていた。 「ミス・ヴァリエール?」 コルベールが訝しそうに彼女の視線の先を見た。成功したのか、感動して立ち尽くしているだけだと思っていた。 しかし同じく、コルベールも呆然となってしまった。 煙が晴れて、ぽっかりと穴の開いたクレーターの中央に、目を疑う使い魔がいた。――まだ、ルイズの使い魔と決まったわけではないが。 人間がそこに倒れていた。その他にも周囲に色々な道具が散乱している。 流れるような濃い青髪が、流麗な線を描き腰まで伸びていて、瞼を閉じて気を失っている。 袖の無いローブのような服はピッタリと身体に張り付いていて、身体の細さを表していた。 驚くことに、人間には別の生物の耳が生えていた。それと、仰向けになっているので確認しにくいが、同じく別の生き物の尻尾も見える。 それでも一言で表すならば美少女。女性にしては背丈があり、年齢は分からないが、まだ幼さの残っている表情から自然と少女の言葉が浮かんだ。 「コ、コルベール先生!」 だが、それと使い魔の儀式とは別の話だ。ルイズはハッとしてコルベールに向き直り、再び懇願した。 「もう一度、もう一度だけ召喚させてください!!」 すでに儀式に成功したという感動は消え失せていた。まず人間を召喚するなど聞いたこともない。 周りの生徒も、召喚された人間に気付いて声を上げて笑っている。 ゼロのルイズ、平民を召喚しやがった、様々な言葉が聞こえてくるが、そんなものに構っている場合ではない。 「これは伝統ある神聖な儀式だ。例外は認められない。ミス・ヴァリエール、コントラクトサーヴァントに移りなさい」 「で、ですけど……!」 コルベールも、ルイズの気持ちは痛いほど分かっていた。もし自分が人間を召喚したら、同じことを思うだろう。失敗したと。 だが召喚してしまったのだ。れっきとした成功の証が、召喚された使い魔がそこにいるのだ。 例え何があろうとも、その事実は否定しようがない。 と、そのとき召喚された人間から、呻き声が聞こえてきた。 「う……ん、着いたのかな? ……あれ?」 優美な声が響く。驚いてルイズは使い魔のほうを見てみると、片や使い魔は取り乱していた。 「あ、あれ、洞窟じゃない? それよりなんで外にいるの!?」 訳の分からないことを言う使い魔に、ルイズは煩わしさを覚えた。 これがどうしてか声が聞こえた途端、使い魔の美しさが更に増しでいるのだ。 何故かそれに劣等感を抱いてしまい、苛立ちを覚えながら使い魔のほうへと向かった。 「ちょっとアンタ!」 その声に気付いた使い魔がきょとんとした表情でルイズを見上げた。 「あんた、誰?」 「え? あの……ドラコ、です」 「そう、ドラコっていうのね」 名前を聞いたところで、改めて思考を巡らせる。果たして何から言えばいいのか。 「なんで人間が召喚されたのよ!」とでも言えばいいのか。 しかし目の前にいるドラコにとって、聞きたいのはこっちだと思うだろう。 そうして考えているうちに、ドラコはゆっくりと立ち上がって辺りを見渡した。 立ち上がったドラコを見ると、身長は百七十サント近くもある。女性にしてはかなり背が高いほうだろう。 「ミス・ヴァリエール、他にもまだ召喚していない生徒はいるのです。早く契約を」 急かすように言うコルベールに、ルイズはついに諦めてしまった。 それに、もしかしたら美しい使い魔、という願いは叶ったのかもしれない。平民という部分を除いて。 「五つの力を司るペンタゴンよ」 ドラコに顔を近づけて、彼女の首に腕を回す。 「この者に祝福を与え、我の使い魔と――」 その言葉が、最後まで続くことはなかった。 乾いた音が響く。いつの間にかドラコは数歩先に離れていて、ルイズはその場に立ち尽くしていた。 驚いた表情を浮かべるドラコの胸元に、両手が添えられてある。そして自分の頬が、じんじんと痛みを覚えてきた。 ――叩かれたのだ、平民に。 漠然と、その事実だけが頭の中を埋め尽くした。 自ら召喚した使い魔に拒絶され、叩かれる。これほどバカなことはあるのだろうか。 魔法もまともに使えない。 使い魔の儀式にあろうことか、人間を召喚してしまった。 コントラクトサーヴァントも行えない。 貴族として、完全に堕ちている自分に耐え切れず、ルイズはその場で泣き崩れてしまった。 慌ててドラコはルイズに近寄るが、コルベールがそれを制して、近くにいた生徒に指示した。 「ミス・ツェルプストー、彼女を自室に」 言われたキュルケは、ルイズを連れて学園へと向かう。 その最中でも、ただルイズは涙を流しているだけだった。 「……とりあえず、残りの召喚の儀を終わらせましょう」 コルベールの声と共に、いつの間にか静まり返っていた生徒たちが、急に騒ぎ出す。 どうしていいか分からずに、その様子を見ているドラコにコルベールは耳打ちをする。 「しばらくの間待っていてください。終わり次第、私と一緒に来てください」 状況も理解できず、だからこそとドラコは頷いた。 それでも、困惑した中でも常に想うことは、エンキクラドュスとネペトリの姿だった。 ドラコは目の前に起こっている出来事に驚愕していた。 人間が呪文を唱えたと思うと、数歩先から様々な生き物が現れてくる。 が、どれも大した力はなさそうに見える。時折ドラゴンやサラマンダーなども召喚されるが、ドラコにとってはどれも馴染みのあるものばかりであった。 そして、その光景を見ている中で、気になることがあった。黒いローブを纏った人たちのほとんどが、こちらを見て、なにやら話を交えてるのだ。 「あのー?」 見せ物にされているようで、正直良い気分はしない。試しに声を掛けてみると、一斉に視線を逸らされる。 そんなやり取りの間に、横に立っている禿頭のコルベールが一通りのことを話してくれた。 ここはハルゲニアのトリステイン学院という場所で、目の前にいる同い年ほどの人たちはその生徒であり、春の使い魔召喚の儀式に臨んでいるのだと。 「キミはどこから来たんだい?」 使い魔の儀式が終わり、生徒たちが飛んで帰っていく様子を見届けた後に、ふとコルベールから訊ねられた。 それまでは色々と教えてもらったのだから、答えるのが当然である。並んで学院へと向かいながら、思うこともあるがドラコは答える。 「カバリア島から少し離れた、蜃気楼の島という場所です」 「カバリア……? 聞いたことがないな」 首を傾げているコルベールに、ドラコも難しい表情を浮かべた。 こちらもハルゲニアやトリステインなどという言葉は聞いたことがない。それ以前に、先ほどから違和感を感じている。 別の大陸なのだろうか? そう考えながら、ふとドラコはコルベールに聞いた。 「授業が終わると、みなさんああやって飛んで帰るんですか?」 「フライの魔法かね? ああ、ドラコさんは平民ですから魔法を見たのは初めてですか」 「……へ?」 初めて? いや、確かに地域や環境によっては、魔法を使う人間が少ないところもあるかもしれないが、それにしてはコルベールの言葉は的外れなものだった。 「魔法は貴族しか使えませんから、驚くのも無理はないでしょう」 このコルベールの言葉で、ドラコは確信した。 いま自分がいる世界は、まったく別の、カバリア島から遠く離れた、異次元にある世界なのだ。 「そう、ですね。いきなりふわふわって飛んでいきましたし、ビックリしました」 疑問に思い、とりあえず話を合わせる。まさか魔法型である自分が貴族だということもないだろうし、魔法を使えると教えるのも不用心だろう。 と、学院の門を潜った。コルベールに案内されたのは学院長室。そこには一人の老人が机に向かって座っていた。 「おお、どうしたのじゃミスタ・コルベール? むぉっ!? べっぴんさんなぞ連れよってけしからん!!」 「オールド・オスマン、少しお話がありまして」 開口一番に意味の分からないことを発する老人に対して、コルベールは冷静に対応した。 そんなコルベールに何かを感じ取ったのか、オスマンも表情を締めて、席を正す。 「ミス・ヴァリエールが彼女、ドラコさんを召喚の儀に呼び出してしまいまして。どう対処すればよろしいのですか?」 「なんじゃ、ヴァリエールの三女がやらかしたのか。お嬢さんも気の毒じゃろうて。人間が使い魔として呼び出されるとは聞いたことも……」 眉を顰めてオスマンはドラコを見た。 確かに平民を召喚したという事例は聞いたことがない。 「あの、オスマン学院長、その召喚のお話の前にいいですか?」 荷物を床に置いて、ドラコは話に入った。 ほう、とオスマンが向き直ると、それに合わせてドラコは前に出て向き合った。 「その使い魔、とかのお話は……ルイズさん、でしたよね? 彼女もいないといけないのではないでしょうか?」 改めて言われると納得してしまう。オスマンは長く伸びた白髭を撫でながら頷く。 優しそうな目をしているが、しかしそれが困っているようにも見える。ドラコも置かれた状況を理解しきれていないのだろう、とオスマンは考えた。 「ふむ、そうじゃな。あい分かった。後日詳しく話をするとしよう。ミスタ・コルベール、彼女に部屋を」 「そうですね、分かりました」 コルベールが頷くと、手でドラコを促そうと部屋のドアへと向かわせる。 が、それを遮ってドラコは口を開いた。 「……何か、勘違いしていませんか?」 「何がじゃ?」 聞かれたオスマンは、ドラコに問い返した。 だがドラコは怪訝そうな表情を浮かべただけで、踵を返してコルベールの後に付いていった。 使い魔、主人の僕となり生きていく存在。 ドラコの脳裏に、ネペトリの姿が過ぎる。そして、その隣には海神ポセイドンの影が見え隠れする。 苦い想いが胸を締め付けてくる。この世界に早々に疑問を持ちながら、ドラコはただ現状を把握するために行動する。 前ページ次ページゼロのTrickster
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今日も今日とてルイズはお決まりの召喚をしていた。 ――そして、『それ』は現れた。 「あんた誰?」 爆音と共に姿を見せた平民らしき人物にルイズは呼びかける。 帰ってきた答えは―― 「武器や防具は装備しないと効果が無いよ」 「・・・へ?」 「武器や防具はry」 一瞬、まるで小島よしおが熱湯風呂に入った時のような沈黙が訪れた。 なんとも言い難い、痛々しい目線がルイズとその平民の男に向けられる。。 それはそうだろう、これが唯の平民ならば、『おい!ルイズが平民を召喚したぞ!』 などと言って、笑い物にするのだろう。 しかし、目の前に現れたのは―― 「武器や防具は装備しないと効果が無いよ」 としか『言わない』、のではなく、『それ以外の反応が無い』。という人物だったからである。 容姿自体はいかにも普通の男性であり、服装もまさに平民といった格好である。 だが、目は虚ろで焦点が分らない、ヤク中の末期患者と見まごう姿だった。というかそれ自体なのかもしれない。 最近噂のものを例に挙げるとすれば邪神セイバーあたりだろうか。 これには閉口するしかない、そしてこういう場合はなるべく関わりたくないものだ。 周囲の反応も 「おい・・・あれ・・・」 「いくらルイズでもあれは流石に・・・」 などといった、憐みと同情の言葉が発せられる。 「・・・ミスタ・コルベール!もう一度召喚させてください!!」 「ミス・ヴァリエール、これは伝統です。・・・お気持ちは大変察しますがやり直しは出来ません」 涙目になりながらルイズは言う。しかしコルベールはルイズに目を合わせず却下した。 「うう・・・唯の平民ならまだしもなんでこんな人間かどうかも怪しいやつなんかと・・・」 酷い言いようだがルイズはこの『平民』と契約しなければならないのだ。 会話は困難を極めるだろう、王様から剣一つも買えないはした金渡されてホイホイと魔王退治に行く 「はい」「いいえ」のセリフもとい選択肢しか無い勇者でももう少し高レベル会話が可能なもんである。 そして、その『平民』にルイズは唇を重ねた―― 後に、この使い魔はあらゆる武器を使いこなすガンダールヴとしてその力を遺憾無く発揮することとなる。 (しかし、ガンダールヴの主はこの使い魔の存在を否定したとかどうとか。) 死後も伝説として残り続け、彼が生涯に残したたった一つの言葉はあまりにも有名であり、王様の近衛兵から村人Aまで多岐に渡って語り継がれている。 『武器や防具は装備しないと効果が無いよ』 これは彼を表す言葉であり、伝説の名言となった。 ――しかし、どうしても彼の名前だけは分らなかったとか。 ~完~ -RPGにおける村人Aを召喚
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前ページ次ページゼロのヒットマン ここはとある町でのことだった。 「たまには散歩もいいですね、十代目。」 「そうだね。」 ツナと獄寺は町を楽しそうに散歩していた。すると突然不気味な鏡が現れました。 「なんだこのヘンテコな鏡は、」 獄寺が鏡に手を触れた瞬間、獄寺が鏡の中へと吸い込まれていった。 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」 「獄寺くーーーーーーん!大変だリボーンに知らせないと。」 その頃、ハルケギニアの世界ではルイズが召喚の魔法の儀式を行っていた。 「宇宙の果てのどこかにいる私の僕よ!神聖で美しく!そして強力な使い魔よ!私は心より求め、訴えるわ!我が導きに、 応えなさいっ!」 杖を振り下ろすと、爆音とともに煙が巻き上がった。 「げほっ、げほっ、使い魔はどうなったの。」 煙の先に現れたのは、銀髪の男で服装はハルケギニアではみかけない格好だった。 「いてててててっ、ここは何処だよ、何がどうなっちまったんだよ・・・・・・」 「あんた誰よ?」 「俺は獄寺隼人だ!それよりもおめぇこそ誰だよ!訳の分かんねぇ世界に来ちまって俺は混乱してるんだ!」 獄寺は怒りを露にしながらルイズに質問した。 「私はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ。」 「長ぇよ!そんな名前!」 「ルイズでいいわよ。」 「それよりもここは何処だ!それになんで俺がこんな世界にいるんだよっ!」 「ここはハルケギニアのトリスティン魔法学校で、あんたは私の『サモン・サーヴァント』という召喚の魔法で呼び出され使い魔よ。 しかしなんで私の使い魔がこんな平民なのよ。ミスタ・コルベール!召喚をもう一度やり直させて下さい!」 ルイズはローブを纏って杖を持っている禿頭の中年男に言う、しかし男は首を横に振った。 「ダメです。一度召喚された使い魔は変更することはできません。」 「そんな・・・」 コルベールのその一言にルイズは少しショックを受けた。それを見ていた生徒達は 「おいルイズ!召喚で平民呼び出してどうすんだよ!」 「さすがゼロのルイズ。召喚したのが平民なんて傑作だ。」 「うるさいわねっ!私だって好きでこんな平民呼び出したわけじゃないんだからね!」 ルイズと生徒達が争っていると、後ろから獄寺がなにやら不満そうな態度を見せていました。 「さっきから俺を無視しやがって、それに俺を平民平民と呼びやがってふざけんじゃねえ!俺は十代目の右腕となる存在だ! 喰らえ!ハリケーン・ボム!」 獄寺がポケットからダイナマイトを取り出すとそのダイナマイトが発火し、そのダイナマイトは生徒達へと向かっていった。 ボガーーーーーーン! 「げほっ、げほっ、何だよ平民のくせに。」 「おめぇらもう一回ハリケーン・ボムを喰らいてえのかっ。じゃあ果てろ。」 獄寺の鋭い目つきと手に持っているダイナマイトを見た生徒達は 「ルイズの使い魔のあいつヤバそうだぜ。」 「じゃあ逃げるしかねぇよな」 あまりにもやばいのか逃げ出しました。 「獄寺!あんたのその技すごいのね!」 「当然だ!俺は十代目の右腕となるために強くなったんだ!それよりも俺を元の世界に帰してくれ!あっちでは十代目が俺のこと心配してんだ!」 するとルイズは首を横に振った。 「無理よ、元の世界に帰す方法がないのよ。」 「そうかよ、だったら俺はお前の使い魔にでもなんにでもなってやる!ただしその代わり俺を十代目の所へ帰す手段を見つけろよ!」 「分かってるわよ!」 そういうとルイズと獄寺は魔法学校の遼に戻りました。 その日の夜の事でした。ルイズは獄寺にこんな質問をしました 「そういえばあんたの言ってた十代目って誰なのよ。」 「なんだよいきなり・・・・まぁ教えてやるよ。十代目っていうのは沢田綱吉のことだ。俺は初めてあの方と会ったとき、なんでこいつがボンゴレファミリーの 十代目なんだよって思ったんだ。しかしあの方と戦ってみて俺は負けたんだ。あの方こそボンゴレファミリーの十代目にふさわしいとな。」 「そうなんだ。あんたにも大切な仲間がいたのね。」 それからルイズと獄寺は眠りにつきました。 眠りについてから数時間後、獄寺は変な夢を見ました。 「獄寺くん!獄寺くん!」 夢の中でツナが獄寺を呼んでいました。 「十代目、一体何ですか。」 「獄寺くん早く帰ってきてくれよ!みんなも獄寺くんの帰りを待ってるんだ!」 「すみません。俺はまだ十代目の元へは帰れません。」 「なんでだよ!みんなが獄寺くんの事を心配しているんだよ!」 「十代目、俺は・・・・・・」 夢の中で獄寺がツナに何か言おうとしたその時 「ご~~~く~~~で~~~ら~~~っ!」 ルイズが怒った表情で獄寺を起こしました。 「うわっ!ビックリさせんなよっ!」 「ビックリしたのは私の方よ!いくら叫んでも全く起きなかったんだから、いったいどんな夢を見たのよ。」 「そんなのお前には・・・・・」 「いいから答えなさいよっ!」 獄寺はルイズに自分が見た夢の内容を話した。 「そうなんだ。つまりその十代目の人が獄寺の帰りを待ってるんだ。」 「そうだ!俺は一刻も早く十代目の元へ帰る手段を見つけるんだ!」 「いつになるか分からないけど必ず見つけるわ!だって獄寺の頼みなんだから。」 しばらくして獄寺はルイズにこんな質問をしました。 「そういえば、なんでルイズはあいつらにゼロのルイズって呼ばれてんだ。」 ルイズは悲しげな表情で答えた 「それは・・・・私はどんな魔法を使おうが必ず爆発して失敗してしまうのよ。この世界では魔法を使えないことなんて考えられない事なのよ。 それでお父様もお母様も、エレオノールお姉様も私に何一つ期待しなくなったのよ。」 「そうだったのか。悪かったなこんな事聞いちまって。」 「いいのよ。獄寺に私の辛い気持ちを伝えることができたから・・・。」 ルイズの悲しげな表情を見た獄寺は 「魔法なんて努力すれば使いこなせるようになんだからよ。あんまりメソメソすんな。俺も十代目の右腕として頑張ってるんだからお前も頑張れよ!」 「ありがとう・・・・獄寺。」 前ページ次ページゼロのヒットマン
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前ページ次ページゼロの使い魔・ブルー編 ルイズは一つの目的と、企みを持っていた。 目的は使い魔と主人の関係を、はっきりと教えつけることである。 そのための企みの一つ。 (無駄に貧相な食事――) 生きるのに必須とも言える食べ物の差で、 単純に立場の差を示す。 更に、わざわざ食堂に連れてきて、 その差をはっきりと自覚させる。 (――完璧ね) ルイズはそう考えていた。 事実、ブルーはあのスープっぽいものと、パンの欠片を見つめている。 「どうしたのブルー?早く食べないと冷めるわよ?」 などと、ちょっと馬鹿にするような口調で話しかけてみたりもする。 が、特に反応はない。と言うか、普通に食べている。 (……あれ?) 予定と違う。 本来なら、少し文句を言ってきたところに、 お情けで鳥の皮でも与えてやろう、位に思っていたのだが。 出来るだけ動揺を前に出さずに、話しかける。 「……ブルー、それで足りるの?」 「無い物は仕方がない」 予想していたものと違う反応が返って来て、 ルイズはちょっと焦りながら、 「いや、食事とか寝床を提供するとは言ったけど、 これはちょっと酷いかな、なんて……あははは」 「クーロンの宿屋は金を取る割には飯は出ないし 床で寝るのとそう変わらないベッドだったな」 「そ、そう……」 クーロンと言うところは知らないが、 これ以上待遇を悪くするのは流石に躊躇われたので、 ルイズは食事で立場の差を教え付けるのは諦めた。 ルイズの企み、失敗。 食事を終えると、ブルーはルイズの後に付いて教室にむかっていた。 教室に入ると、多種多様な生き物が居た。 恐らく、全て使い魔なのだろう。 ブルーはそう考えながら、周りを見回した。 「犬じゃないよ!クーンだよ!」 ……何か聞こえた気がしたが気のせいだろう。 そうこうしているうちに、教師と思わしき女性が、扉を開けて入ってきた。 席に着こうとすると、 「ここはメイジの席。使い魔は座っちゃ駄目」 そうルイズに言われたが、ブルーは無視して座り込む。 ルイズは何も言ってこなかった。 「皆さん。春の使い魔召喚は、大成功のようですわね このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に、 様々な使い魔達を見るのがとても楽しみなのですよ」 シュヴルーズと言うらしい教師の声が響く。 そう言うと、辺りを見回し、ルイズとブルーを見てから、続けた。 「……おや、変わった使い魔を召喚したものですね。ミス・ヴァリエール」 瞬間、生徒達が笑い出す。 「ゼロのルイズ!召喚できないからって、その辺歩いてた平民を連れてくるなよ!」 その言葉に対し、ルイズは立ち上がり、澄んだ声で返した。 「ブルーは確かに私が召喚した使い魔よ」 「嘘つくな!『サモン・サーヴァント』が出来なかったんだろう?」 何が面白いのかは解らないが、教室中の生徒が笑い出す。 が、ルイズはその嘲笑を意にも介せず、返した。 「そう思いたいなら思えばいいわ」 いつもと違う反応に、笑っていた生徒達はお互いに顔を見合わせ、 疑問と驚きを含んだ表情を互いに見せ合う。 「……何があったんだルイズの奴」 「妙なものでも食べたんじゃないか?」 が、何故かそれには 「私は野良犬じゃないわよ!」 と返すルイズ。それを聞いて、 馬鹿にするような様子は抜きで、暖かい笑みを浮かべる生徒達。 「ああ、いつものルイズだ」 「やっぱルイズはこうじゃなくちゃな」 そんなことを言うクラスメイト達に、ルイズは怒りを爆発させた。 「どうゆう意味よっ!」 そんな様子を眺めていたシュヴルーズは、こんな事を呟いていた。 「良いクラスですねぇ……」 そう言いつつも、授業を進めるために杖を振り、 話を止めない生徒達のく口に粘土を押し付ける。 「仲が良いのは良いことですが、授業は静かに受けて下さい」 ……笑っていた生徒達とは対照的に、キュルケはルイズの使い魔をじっと見つめていた。 「それでは、授業を始めますよ」 そう言い、杖を振ると教壇の上にいくつかの石が現れる。 ルイズは姿勢を正し、授業を受ける姿勢になった。 横を見ると、自分の使い魔も似たような姿勢で居るので、何かおかしかった。 「さて、私の二つ名は『赤土』。赤土のシュヴルーズです。 『土』系統の魔法を、これから一年皆さんに教えることになります。 魔法の四大系統はご存じですね?えー……ミスタ・マリコルヌ」 「は、はい。ミセス・シュヴルーズ。『火』『水』『土』『風』の四つです!」 その言葉を受けて、シュヴルーズは軽く首を縦に振った。 「今は失われた『虚無』を合わせ、全部で五の系統があることは、 その五つの系統の中でも、『土』は重要な位置を占めると私は考えます。 それは私が『土』の系統のメイジだから、と言うわけではありません」 彼女は一度咳払いをし、間を取ってから続ける。 「『土』は万物の組成を司る、重要な系統なのです。 この魔法がなければ、金属の精製は出来ませんし、 石を加工して家を建てることも難しくなるでしょう。 農業などにも利用されており、私達の生活にとって最も重要な系統であると言って、間違いはないと思います。 ……さて!今から皆さんには、土系統の基本である、『錬金』を学んでもらいます。 既に出来る人もいるでしょうが、その人達は再確認の意味を込めて、もう一度学んで下さい」 そう言うと、彼女は杖を振り上げ、短くルーンを唱えた。 すると石ころが光に包まれ、暫くたち光が収まると、 石ころは黄金色に輝く金属になっていた。 それを見て、キュルケが思わず少し大きな声で言う。 「ゴ、ゴールドですか先生」 「ただの真鍮ですよ、金を錬金出来るのは『スクウェア』クラスのメイジだけです。 私はただの『トライアングル』ですから」 『土』系統については解った――少々誇張が入っていることもだが、 そもそもの基本的なことが全く解らないので、 ブルーは少し悪いと重いながらも隣にいるルイズに聞くことにした。 「ルイズ」 「何よ?」 「『スクウェア』とか『トライアングル』とはなんだ?」 「系統を足せる数の事よ。それでメイジのレベルが決まるの」 「それだけ解れば今は良い。後で詳しく教えてくれ」 「解ったわ」 その後暫く授業が続いている内に、シュヴルーズが発した一言によって空気が変化する。 「では、実際にやってもらいましょうか。……えーと、ミス・ヴァリエール?」 具体的には、緊張が張り詰めた。 生徒達がざわめき始める。 「はい」 「この石ころをあなたの望む金属に変えてみて下さい」 ざわめきはどよめきになり、 キュルケが先生に対し発言をした後でも、収まることはなかった。 「先生」 「なんですか?ミス・ツェルプストー」 「止めた方が良いです」 「どうしてですか?」 「危険です」 キュルケははっきりと、確信を持って言った。 この時だけは全員が黙り込み、その言葉に頷き同意する。 「危険?どうしてですか?」 「ルイズを教えるのは初めてですよね?」 「ええ、ですけど彼女が努力家だと言うことは聞いています。 さぁ、ミス・ヴァリエール、失敗を恐れずにやってご覧なさい」 「解りました」 ルイズには自信があった。 間違いなく優秀な使い魔を召喚したこと。 言うことはあまり聞かないが、彼が優秀であることは間違いはない。 使い魔の召喚、『サモン・サーヴァント』に成功したという事実が、 彼女に自信を与えていた。 自分でも成功するんだと。 だから、この錬金も成功するはずだと、彼女は信じ切っていた。 まぁ、客観的に見ればそれほど論理だった自信ではない。 その召喚でさえ、十回単位の失敗を経てようやく成功したのだから。 「……何だ?」 ブルーは教室の雰囲気が変わったのを感じ取り、疑問に思った。 ルイズが錬金を行うと何かまずいことでも起きるのだろうか? ルイズが席にたち、教壇にむかっていく。 生徒達の悲鳴が聞こえてくる。 それは、ルイズが教壇に近づくほど、大きくなっているようだった。 (何が起こるんだ?) ルイズが教壇の上に立つと、先ほどシュヴルーズがやったように、杖を振り上げる。 そして、ルーンを唱え……危険を察知したブルーが、『盾』の秘術を密かに使い、 ルイズが杖を振り下ろし、石ころが爆ぜた。 予め使われていた『盾』のおかげで、それほどの被害はない……と言いたいところだが、 爆音に驚いた使い魔達がなんか凄いことになっていたし、 『盾』を貫通したがれきや爆風で何人かの生徒が怪我をし、 『盾』が間に合わなかったシュヴルーズは黒こげになって昏倒し、痙攣を起こしていた。 がれきの中から煤だらけになったルイズが起き上がり、 周囲を見回すと、軽く言った。 「ちょっと失敗したわね」 「……そりゃまぁ、いつもに比べればちょっとだけど」 意外と冷静に被害を計っていたキュルケが言った。 前ページ次ページゼロの使い魔・ブルー編
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前ページ次ページゼロと損種実験体 夜が開け、木々や小さな動物達が目覚める時間。 泡沫の眠りから目覚めようとする瞬間こそが、人が最も至福を感じる瞬間だとルイズは信じる。 目覚めるか目覚めないかのまどろみと、自身の人肌に暖まった布団。この幸せをもっと味わおうと、ルイズは毛布に潜り込む。 いわゆる二度寝である。 だが、今日に限っては、至福の時は不埒な何者かによって妨げられる。 「いつまで、寝ている気だ。さっさと起きろ」 耳に馴染みのない男性の声と共に、毛布は剥ぎ取られ、更に首根っこを持ち上げられ子猫のようにつまみ上げられる。 「ふにゃ?」 何が起こったのか理解が追いつかず、声の主であろう男を見やる。 そこにいたのは、がっしりとした体格の黒いシャツを着た、顔の左に広く傷跡を残した見覚えのない何者か。 「だっ、誰? なんで、わたしの部屋に見知らぬ男が!?」 「寝ぼけるな。昨日お前が召喚したんだろうが」 左手に刻まれた使い魔のルーンを見せてくる男に、そういえばそうだったわね。と持ち上げられたまま拍手を一つ。 なんだか分からないけど偉そうな亜人を召喚してしまい、紆余曲折あって契約のキスをすませたんだった。 ファーストキスだったけど、使い魔だし亜人だしノーカウント。そういえば、ミスタ・コルベールが珍しいルーンだとか言ってスケッチしてたような。 「でも、なんでこの状況?」 「お前がいつまでも起きないからだ」 「へ?」 首を傾げる。窓から差し込む光からみて、いつも起きている時間と比べるとまだ早い。 起き抜けで回らぬ頭で告げる言葉に、その男、アプトムは渋面になる。 「お前がいつもどの時間に起きてるか知らないが、昨日寝る前に自分が何を言ったか思い出してみろ」 「寝る前? 何か言ったっけ?」 首を捻るが、いい感じにボケた寝起きの頭は答えを出してくれそうにない。 「『使い魔の役目を説明したいけど、今日はもう遅いし明日の朝に教えるから早めに起こして』 お前は、そう言って布団に潜り込んだんだがな」 言われてみれば、そんな事を言った気がしないでもない。 「えーと、ごめん」 「もういい。それより使い魔の役目というのをさっさと説明しろ」 なんか偉そうね。と思いつつも、半ば寝ぼけたままの頭のおかげか、怒りは涌いてこない。 というか、説明したら二度寝させてくれるかしら。 使い魔の役目は大雑把にわけて三つ。 一つ目は、主人と視覚聴覚を繋げ、自分の見たものを主人に伝える。鳥のやコウモリのような空を飛ぶ使い魔に与えられることの多い役目。 二つ目は、主人の指示に従い、主人の求める秘薬の材料を探し見つけてくる。モグラやトカゲのような人が入り込めないような所に行くことのできる使い魔に与えられることの多い役目。 そして三つ目、主人を守り戦う。人と同じかそれ以上の体躯を持つ使い魔に与えられる役目。 「つまり俺の役目は、お前に危機が迫った時に守って戦うことなんだな」 「うん。なんでか視覚も聴覚も繋がってないみたいだし。あと、わたしのことはお前じゃなくてお主人様って呼びなさい」 答えながら、なんとなしに昨日見たアプトムの姿を思い浮かべる。 オーク鬼と同じくらいの体格の爬虫類に似た亜人とその首に貼りついた腕……。 「って、何よアレ!?」 「急に、どうした?」 どうもこうもないだろうと、思い出した事を追求する。先日は自分もコルベールもうっかり追求を忘れていたが、放っておいて良い話題ではないとルイズは思うのだが。 「大したことじゃない。それと、昨日のあれが俺の本当の姿というわけでもない」 などと不可解な答えが返ってきた。 どういう事なのか、しっかり説明しなさいと命じてみたが、説明しても理解できないだろうと言われた。まあ、確かに先住の変身魔法なんか説明されても理解できないだろうし、なんだかどうでもよくなってきた。と言うか眠い。 変化の先住魔法とは何だ? アプトムは、昨日から何度も思い、しかし質問のタイミングが取れなかったために保留したまま忘れていた疑問を頭に浮かべるが、聞いても答えは返ってこないだろう。 なにしろ自称ご主人様は、彼に摘み上げられたまま寝入ってしまったのだから。 しかも「授業の前に朝食だから食堂に連れて行ってね。その前に着替えも」などと寝言なんだか分からない言葉まで残してだ。 ふざけるなと、ベッドに投げつけてやろうかと思ったが、子供の言う事にいちいち腹を立てるのも大人気ない。 だからといって、本当に寝ているルイズを着替えさせてやるのはどうだろう。とは、アプトムは考えない。 相手は、おそらくは12か13歳の子供でしかも貴族とやらだ。彼女にとってこれらは、ごく普通の言動なのだろうし、彼はいい歳をした大人である。意味もなく反発しようとは思わない。 アプトムは子猫のようにぶら下げたルイズを持ってクローゼットに向かう。 ルイズの年齢は16歳なのだが、彼はまだそのことを知らない。 着替えさせて、まだ眠ったままのルイズを担いで部屋を出ると、ちょうど同じようなタイミングでルイズより軽く五歳は年長に見える赤い髪の少女が別の部屋から出てきていた。 「おはよう。ルイズ」 アプトムの肩の上のルイズに気がついた少女の朝の挨拶に、ルイズは薄目を開けて「おはよう。キュルケ」と返してまた重い瞼を下ろす。 「なんか、眠そうね」 「昨日は、夜遅くまで話をしてた上に、布団に入ってからも興奮して中々眠れなかったようだからな」 話をしていたのは、ほとんどがアプトムとコルベールで、ルイズは付き合いで起きていただけのようなものだったが。 「ふーん。あなたがルイズの使い魔?」 肯定すると、キュルケはアプトムを指差し笑った。 「あっはっは! ほんとに人間なのね! 『サモン・サーヴァント』で平民呼んじゃうなんて、さすがはゼロのルイズだわ」 その言葉に、なるほど自分の獣化について知られていないようだな。とアプトムは昨夜のコルベールとの会話を思い出す。 ルイズとの契約を済ませた後、コルベールはアプトムが亜人であることは隠して欲しいと頼んできていた。 亜人で先住魔法の使い手の使い魔だなどと、アカデミーにでも知られれば、取り上げられるのは間違いなしと言われルイズも同意した。 アプトムとしても、そんなところに連れて行かれてモルモットにされるのはごめんだが、隠したところであの召喚の場に居合わせたものが喋れば同じことだろう。それ以前に自分は亜人などというものではないが。 だが、コルベールは召喚の瞬間と変身するところは誰も見ていないはずだと言う。 あの時、ルイズ以外の生徒は皆、召喚と契約を済ませていた。ルイズだけが終わらせてなかったのは、彼女が何度も召喚に失敗していたからで、アプトムが現れた時にはもうルイズの召喚の魔法の失敗笑うのにも飽きて、彼女を注目している者はいなくなっていたのだ。 「どうせ使い魔にするなら、こういうのがいいわわねぇ~。フレイム」 キュルケが呼ぶ声に応えて、巨大な赤いトカゲがのっそりと姿を現す。 虎ほどもある体躯と、呼吸と共に口からこぼれる炎に、これは自分と同じで主人を守る役目の使い魔だな。と思っていると、キュルケがつまらなそうな顔になる。 「驚かないの?」 そう言われても、彼はこのハルケギニアを地球とは別の惑星だと判断している。ついでに言うと、メイジも地球の人類と似た姿をしているだけの別の生き物だと思っている。ここで、未知の動物が出てきたところで驚くには値しない。地球でも見られる普通の動物が出てきたほうがよっぽど驚いだろう。いや、普通の動物もいるのだが。 もっとも、彼らの文化レベルから考えて別の星から来たなとと言っても頭がおかしいと思われるだけなので「珍しいのか?」と答えておく。 「珍しいのよ! 火トカゲよ! ほら見て、この尻尾。ここまで鮮やかで大きい炎の尻尾は、間違いなく火竜山脈のサラマンダーよ。ブランド物なんだから! 好事家に見せたら値段なんかつかないんだから」 そう言われても比較の対象がないのだから感心のしようがない。 反応の薄いアプトムと、本当に見せびらかしたかった相手であるのに舟を漕いでいるルイズに、キュルケはつまらなそうな顔になる。 「じゃあ、お先に失礼」 踵を返し立ち去ろうとするキュルケだが、それをアプトムが呼び止めて言う。 「悪いが食堂の場所を教えてくれ」 キュルケに案内されて行った食堂は、学園の敷地内で一番高い本塔の中にあった。 無駄に広い食堂内には、やはり無駄に長いテーブルが三つ。テーブルには豪華な飾りつけと豪勢な料理。なんのパーティだといいたくなる様だ。 「朝から、こんなに食べるのか?」 呆れた声を出すアプトムに「そんなわけないでしょ」と答えが返ってくる。 朝からそんなに入るわけがないし、この学院に通う生徒は皆貴族なのだが、貴族たるもの出された料理を全て平らげるような、はしたないことはしない。適当につまんでお腹が膨れたらあとは食べ残すのだ。 「なんともコメントし辛いものだな」 言って、ここだと教わった席にルイズを座らせると、さすがに目を覚ましたらしいルイズが、ここがどこだか分からないのか小動物のようにキョロキョロと周りを見回しアプトムを見つけて納得した顔になる。 「あー、食堂ね。うん。分かってる。わたしが連れて行けって言ったんだもんね」 「何を言い訳している。いいから、さっさと食べろ」 「うん。偉大なる始祖ブリミルと女王陛下よ。今朝もささやかな糧を我に与えたもうことを感謝いたします……。 ってそういえば、あんたの食事を忘れてたわ」 言われて見るとその通りである。というか、アプトム本人は自分が食事を必要とする生き物であることを失念していた。 アプトムには融合捕食という、他者をそのまま栄養分として取り込む能力がある。別に普通の食事が出来ないわけではないが、こちらの方が効率がいいし、ここに来る前には獲物となる敵にも不自由しなかったので、食事という行為を長らくしてなかったのだ。 だが、こちらではそうはいくまい。ルイズの使い魔という立場である以上、その辺りを歩いている人間を獲物にするわけにはいかないし、優れた遺伝子情報をコピーするという戦闘生物の本能が、獣化兵ですらない人間を融合捕食するという行為に積極的ではない。 しょうがないわねえ。とルイズは嘆息する。 この使い魔が反抗的な平民とかだったなら、肉の切れ端の入ったスープと固いパンでも食べさせていたのだろうが、そうではないし何の用意もしていない。 「わたしの食事を分けてあげるから適当につまみなさい。主に、はしばみ草とかを」 そう告げると、ルイズは食事に取り掛かったのだった。 この期に及んでも半ば寝ぼけたままのルイズが、朝食を済ませアプトムに学院のことを話しながら授業のために向かった教室に入ると、先に来ていた生徒の多くがルイズと次にアプトムを見て聞こえよがしに笑い声を上げる。 あからさまな嘲りの笑いに訝しく思ったが、先に朝食を済ませて教室に来ていたキュルケを見つけて、そういえば平民がどうの言っていたな。と他の生徒が連れている使い魔らしき動物たちを見回し、自分以外に人間の姿をした生き物はいない事を確認する。 人間の何に問題があるのかは分からなかったが。 そして、ルイズはと言えば困惑していた。 彼女の主観では、自分が召喚したのは亜人でしかも先住魔法で変身までして見せる凄い使い魔である。 しかし、他の生徒は人間の姿になった後のアプトムしか知らず、コルベールとの話し合いによって、ただの平民を召喚したという事になっているので、ルイズが間抜けにも何の役にも立たない平民を使い魔にしたと思い込んでいた。 ルイズも、アプトムの正体を隠すことに同意し、彼がただの平民と見られていると知っているのだが、現実としてアプトムがただの平民などではない事を知っているために、認識に食い違いがあるのだ。 そんなこんなで、居心地悪げにルイズが席に着いた後、アプトムは自分はどうしようかと考える。 授業中の教室に大の男が突っ立っていたら邪魔だろうし、後ろに下がっていたほうがいいのかもしれないが、自分の使い魔という身分を考えるとルイズの傍にいた方がいいのかもしれない。 どうしたものかと尋ねてみると、ルイズは少し考えて「隣に座ってて」と答えてきた。 そこには、貴族でもない者を座らせていいのだろうか? でも平民じゃないし、よくみたらコイツ目つき悪いいし怒らせたら恐そうだし。 なんて葛藤があったりしたのだか、そんなことはアプトムには分からない。 二人が席に着いてすぐに教師なのだろう、中年の女性が教室に入ってきて教卓の前に立った。 「皆さん。春の使い魔召喚は、大成功のようですわね。このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に、様々な使い魔たちを見るのがとても楽しみなのですよ」 そう言って教室を見回したミセス・シュヴルーズの視線がアプトムで止まる。そこに込められた感情は、疑問。 彼女は、コルベールにルイズの召喚した使い魔が少し特殊なので注意しろと言われていたが、どう特殊なのかは聞いていなかった。 だから、どう特殊なのかと思ったのだが、そこにいたのは大人しくルイズの隣に座る平民の男が一人。人間を召喚して使い魔にするというのは珍しいが、凶暴な幻獣でもあるまいに特に注意しなければならない理由が分からない。 もしかすると顔の左側にある大きな傷跡のことを言ってはいけないとかそういう理由なのかもしれない。一人納得すると、微笑んでルイズに言う。 「おやおや。変わった使い魔を召喚したものですね。ミス・ヴァリエール」 その言葉に悪意などひとかけらもなく、ルイズも確かに変わった使い魔だと心中同意したのだが、そこにありもしない悪意を感じ便乗するものたちがいた。 「ゼロのルイズ! 召喚できないからって、その辺歩いてた平民を連れてくるなよ!」 小太りの少年が笑いながら吐き出した言葉には、強い相手を見下す嘲りの響きがあり、ルイズはそれに敏感だった。 「違うわ! きちんと召喚したもの!」 「嘘つくな! 『サモン・サーヴァント』ができなかったんだろう?」 笑いに包まれた教室の中、その対象の一方であるアプトムは呆れた目で、笑う生徒たちを見る。 事情を知らないアプトムだが、聞いていればルイズが出来のいいメイジでなく、そのせいで馬鹿にされているのであろうことは察しがつく。だが、あまりにも大人気ないだろう。 見たところ、彼らも15~18歳の子供なのだろうが、それでも更に年少の子供であるルイズが実力で劣ることを笑うなど、褒められた話ではない。 ルイズが彼らより年少だというのは、アプトムの誤解なのだが。 それに、ルイズが年少の子供でなかったとしてもだ。と朝食の後、教室にくるまでにルイズが言っていたことを思い出す。 「トリステイン魔法学院で教えるのは、魔法だけじゃないのよ。メイジは、ほぼ全員が貴族なの。『貴族は魔法をもってその精神となす』のモットーのもと、貴族たるべき教育を、存分に受けるのよ」 貴族たるべき教育を受けた結果が、これというのはお粗末すぎるだろう。 「では、授業を始めますよ」 シュヴルーズがそう言ったのは、ルイズと小太りの少年の言い争いが収まったというか、彼女が力ずくで収めた後のこと。 そうして続くシュヴルーズの話をアプトムは適当に聞き流す。ルイズたちはこの学院の二年生であり、つまりこの授業は一年の教育を前提として進められるものである。そんなものを魔法などというものと無縁な世界で生きてきた自分が聞いても理解できるとは思わなかったし理解したとしても、このハルケギニアの住人ではない自分には使えないだろう。 むろん、将来メイジと敵対かあるいは共闘する可能性があることを考えれば、魔法で何ができるかは把握しておく必要があるだろうが。 シュヴルーズが、先にルイズと言い争いをしていた小太りを指名して質問をしたり、火水土風の系統がどうの、失われた虚無の系統がどうの自分は土系統だのと話していたがアプトムの興味は惹かない。 シュヴルーズが錬金の魔法とやらで教卓の上に置いた小石を真鍮に変えた時は、流石に少し驚いたものの、やはりアプトムの興味を惹くものではなかった。 アプトムが興味を惹かれたのは、シュヴルーズが錬金をやってみなさいとルイズを呼んだときである。魔法自体には興味のない彼だが、ルイズには立派な魔法使いになって自分を地球に返す魔法を開発してもらわなければならない。 となれば、ルイズの魔法の実力を見ておいて損はない。出来が悪いのだろうことは察しているが。 そして、他の生徒の「やめて。ルイズ」「はやまるな」「思いとどまれ」「君のご両親は泣いているぞ」「ちょっとまてよ!」「なんです?」という応援の言葉を送られたルイズは、ルーンを唱え「えい、やー」と杖を振り下ろし。アプトムとシュヴルーズ以外、全員の期待に応えて小石を爆発させた。 その爆風は、人一人を容易く吹き飛ばす威力。爆音は、耳元で破裂した爆竹の如し。 ゆえに、至近距離にいたルイズとシュヴルーズは黒板に叩きつけられ、教室にいた使い魔たちは驚き暴れだし生徒たちもそのカオスに巻き込まれた。 「だから言ったのよ! あいつにやらせるなって!」「もう! ヴァリエールは退学にしてくれよ!」「俺のラッキーがヘビに食われた!」 「チャッピー! エサ!」「対抗しようとするな! ナマモノ!」 悲鳴と怒声の上がる阿鼻叫喚の最中、煤で真っ黒になり、服もボロボロにしたルイズが無表情にで立ち上がり、ハンカチで顔の煤を拭いながら淡々と一言呟いた。 「ちょっと失敗したみたいね」 もちろん、その言葉は他の生徒たちの逆鱗に触れた。 「ちょっとじゃないだろ! ゼロのルイズ!」「いつだって成功の確率、ほとんどゼロじゃないかよ!」「何事もなかったような顔して誤魔化そうとしてるぞ!」「許すな!」「くらわしてやらねばなるまい、然るべき報いを!」 怒号の響く中。なるほどな、とアプトムはゼロのルイズという呼び名の意味を理解する。 戦闘生物を自認する彼からすれば、錬金などより爆発の魔法の方がよほど有用性がありそうにみえたが、そんな事を言っていては、ルイズに帰還のための魔法を使わせるなど夢のまた夢だな。と嘆息するのだった。 前ページ次ページゼロと損種実験体